おすすめ小説 4
藤沢氏の小説の特長が、この作品にも充分に生かされていると思えて、私は堪能した、と言えます。
人間誰しも持っていて人には明かせない孤独な心情のあれこれが、この小説には生かされているのです。
逡巡や狡猜も時には顔を出し、単純に相手に勝ったと思う子供じみた競争心や嫉妬も織りこまれていて、政治権力の高みにあった者にもやはり、と思われ、その地平で多くの読者に迎えられるものと私は思いました。
藤沢氏の文章は分かり易く手なれているので、難かしい内容を含んでいる朝鮮使とのやりとりなど、難なく読まされてしまうのですが、次のような文章など美しいです。
間部が白石に、天下の経営はこれから二人でやる、と囁いた時の白石の心情です。
「白石は沈黙したまま間部から眼をそらし、部屋の外を見た。
そして突然に眼がくらむようなものを見てしまったと思った。
見たものが間部の言葉の中にあったのか、それとも部屋の入口までにじり寄っている白昼の光なのかは、すぐにはわからなかった。」
金銀を改鋳して幕府の急を救いましたが、同時に私腹も大いに肥やした勘定奉行萩原重秀も白石の対抗する人物として出てきます。
わが国の今の世の政治家なども読者には思い合わせられるのも自然ではないでしょうか。
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