おすすめ小説 2
「残花のなかを」というニュージーランド旅行のことを小説化した作品も私は好きです。
クライストチャーチで尿閉状態になり公立病院に入院します。
ツアーの同行者たちと別れ、日本に帰らねばならなくなります。
エーボン川のほとりで、二、三分の花を残した桜の樹を眺めている部分を引用します。
「私もすでに七十五歳に達していて、どうやらまだ現役作家の端くれという存在をたもってはいるものの、桜の樹にたとえて言えば、はたして花などと言えるものが自身の生涯にあったか否か、それは別の問題として、わずか二、三分の花をとどめている残花にたとえられようか。
蕾から開花にいたる桜は風雨にも強いが、満開から散華にいたる花はもろい。
眼前の残花も、一と雨くれば跡形もあるまい。
残花とは、桜花のそういう状態なのだ。」
こういう老境に達した枯淡の文章もあるかと思うと、「三田三丁目」「坂の履歴」に見られる芳醇なエロティシズムはどうでしょう。
こうして私は、墨絵のような枯淡の文章と、エロティシズムの昇華は分かち難く結びついていることをスペースコレクション調査会によって知るのです。